カンボジアの再保険市場と農業保険の現状ーーカンボジア農業保険市場シリーズ(4)

4.1 再保険市場の現況

カンボジアの保険市場では2025年時点で再保険会社は1社のみ(カンボジア再保険会社、Cambodian Reinsurance Company)が国内で営業している。IRC局長のBou Chanphirou氏は同社との連携強化および国際再保険市場との取引拡大が農業保険の財務的持続性確保に不可欠であると指摘している。

農業保険における損失率が200%を超える状況では、一次保険会社単独では財務的持続性が確保できず、再保険アレンジメントが必要不可欠である。天候指数農業保険(WICI:Weather Indexed Crop Insurance)制度においてもForte Insuranceが実質的に保険料の50%を補助する構造は、再保険による余剰リスクの分散なしには維持が困難となる可能性がある。

4.2 家畜保険とバイオセキュリティ基準の連関

家畜保険(豚・鶏・牛)の普及においては、保険金支払いの条件としてバイオセキュリティ(防疫)基準の遵守が要件化される事例が国際的に増えている。カンボジアでは小規模農家の大部分が低バイオセキュリティ・放し飼い(free-ranging)の慣行を維持しており、これが保険の引受リスクを高めるとともに、ASF等の感染症拡大の温床となっている。

2023年にAgronomes et Vétérinaires Sans Frontièresが実施したKAPサーベイでは、カンボジアの農家のアフリカ豚熱ASFに関する知識・態度・慣行における深刻なギャップが確認された。バイオセキュリティ基準を保険条件化することで農家の防疫行動変容を促す「保険連動型バイオセキュリティ」モデルの構築が政策的課題として浮上している。

 4.3 法規制上の課題

カンボジア保険市場の法制度的課題としては以下が挙げられる。

  • 農業保険専用法制の不在:農業保険に特化した包括的法規制が未整備であり、一般保険法の枠組みで運用されている
  • 強制農業保険規定の欠如:農業融資に保険加入を義務付ける制度がなく、普及の強制力に欠ける
  • 損害査定の標準化:特に家畜保険において個体識別・損害評価の客観的基準が未確立
  • 農村部での保険詐欺対策:農村特有のモラルハザードへの対処法制が不十分
  • 外資規制と資本要件:外国保険・再保険会社の参入規制、最低資本金要件が農業保険特化型プレーヤーの参入障壁となっている

4.4 WICIの財務的持続性と損失率問題

WICIの最大の財務的課題は損失率(Loss Ratio)の高さである。2021年の導入当初から損失率が200%を超えており、農家の加入者数増加によるプール効果の拡大が損失率改善の鍵を握る。加入率が低いと少数の農家が分散されないリスクを負うことになり、1件の大規模損害が保険基金全体を枯渇させるリスクがある。

理論的には、WICIの対象農家が数十万人規模に拡大すれば、地理的・時間的なリスク分散が進み損失率の安定化が期待できる。このため、政府は「全国展開」計画を優先課題として位置づけており、現行3省から段階的に対象省を拡大することが重要な戦略的判断となっている。

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